アトピー性皮膚炎

当院のアトピー性皮膚炎の
診療の特徴

お子様のアトピー性皮膚炎は他のアレルギー疾患を合併するケースが多く、成長段階で食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、気管支喘息などを次々に発症するアレルギーマーチを起こしやすい傾向があります。当院では幅広いアレルギー疾患を総合的に捉え、リスクが少なく効果の高い治療につながるようにしています。
アトピー性皮膚炎の治療ではスキンケアや軟膏の塗り方といったホームケアの重要性が高いので、実際のホームケアを院内でしっかり実践することで、正しいスキンケアや軟膏の適切な塗り方をご自宅でもできるように丁寧にサポートしています。

アトピー性皮膚炎とは

皮膚の乾燥、赤い紅斑、ブツブツした丘疹が出現し、痒みで搔くことで浸潤性の紅斑や痂疲といった様々な湿疹が左右対称性の分布で混在して生じ、良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性的な皮膚疾患です。強いかゆみがあり、掻き壊して悪化させやすいので、疑わしい症状がある場合には早めに受診してください。小児のアトピー性皮膚炎は乳幼児期に発症することが多く、小児の10%にみられると考えられています。成長につれて改善するケースも多いのですが、一部は成人のアトピー性皮膚炎に移行します。
乳児湿疹もかゆみがあって掻き壊しによる悪化を生じやすい傾向があり、症状だけではアトピー性皮膚炎との鑑別が難しいこともありますが、乳児湿疹はかゆみがそこまで強くはなく、2か月ほどで自然消退します。適切に治療をしても2か月以上症状を繰り返し、湿疹が体や手足にも及ぶ場合はアトピー性皮膚炎が強く疑われます。
いずれにしても、適切な治療でかゆみはコントロールすることができ、正しいケアを続けて良好な皮膚状態を保つことも可能です。不快な症状をできるだけ早く治療するためにも、強いかゆみでお悩みの場合にはできるだけ早くご相談ください。

アトピー性皮膚炎の病態

皮膚の最も外側には角層があり、様々な刺激から身体を守り、体内の水分を保つ役割を担うバリア機能を備えています。アトピー性皮膚炎の皮膚は見た目に問題がなくてもバリア機能が弱く、汗などのちょっとした刺激でも強いかゆみなどの症状を起こし、掻き壊して悪化させ、さらにバリア機能を低下させてしまうという悪循環を繰り返してしまいます。
最近の研究では、アトピー性皮膚炎のある方には、バリア機能に深く関与する角層タンパク質の遺伝子に異常がみられる場合があることがわかってきています。

小児のアトピー性皮膚炎の特徴

小児は免疫や皮膚の機能がまだ十分に発達しておらず、バリア機能に異常を起こしやすいことでアトピー性皮膚炎の発症が多いと考えられています。
乳児期には特に、顔の露出部への湿疹を生じやすい傾向があり、頬・耳の周囲・口の近くに症状を起こすことが多くなっています。湿疹は強いかゆみを起こし、掻くことで首、腕、足、関節など擦れる刺激を受けやすい場所に患部が広がっていきます。皮疹は全身のどこにでも現れる可能性がありますが、基本的に刺激を受けやすい場所、自分で掻ける場所が広がりやすくなっています。
かゆみを抑えて湿疹を広げないためには、適切な治療に加えてスキンケアをはじめとしたホームケアが重要になってきます。

小児アトピー性皮膚炎の
治療の重要性

乳幼児期にアトピー性皮膚炎を発症すると、その後に食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を発症しやすい傾向があり、アレルギー疾患の行進に見立ててアレルギーマーチと呼ばれています。
アトピー性皮膚炎が悪化すると皮膚のバリア機能が壊れてしまい、様々なアレルゲンが皮膚から体内に入り込んでアレルギー反応を起こしやすくなる経皮感作を生じ、それによって別のアレルギー疾患の発症につながります。逆に、アトピー性皮膚炎になっても、しっかり治療して正しいスキンケアでバリア機能を回復させれば経皮感作を起こすリスクを抑えることができ、別のアレルギー疾患発症の抑制につながります。
他のアレルギー疾患発症の予防のためにも、アトピー性皮膚炎がある場合にはできるだけ早期に適切な治療をはじめ、皮膚の状態が良くなってもバリア機能を維持するためにしっかりスキンケアを続けることが重要です。

食物アレルギーと
アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎の重症度と食物アレルギーの発症率が相関するなど、このふたつのアレルギー性疾患の深い関与が指摘されています。アトピー性皮膚炎では皮膚のバリア機能が低下して、細かくなった食べものも皮膚から体内に入り込みやすくなっています。また、皮膚の炎症によってIgE抗体が産生されやすい傾向がありますが、このIgE抗体は食物アレルギーの発症に関与します。アトピー性皮膚炎の治療をしっかり行い、スキンケアでバリア機能を向上させることは、食物アレルギー発症の予防に役立つ可能性があります。

アトピー性皮膚炎治療の
3本柱

アトピー性皮膚炎は、スキンケア・薬物療法・悪化因子の検索と対策の3つをしっかり行うことが治療の基本となり、この3つはアトピー性皮膚炎治療の3本柱と呼ばれています。
スキンケアでは皮膚を清潔に保ってしっかり保湿し、薬物療法ではかゆみを緩和する内服薬や外用薬の塗布を行い、悪化因子の検索と対策では唾液や汗のケア、室内のアレルゲン対策と肌に触れる衣類やタオルは低刺激の素材を選択するなどがあります。

日常生活での注意点

入浴

清潔に保つために、毎日入浴してください。温まり過ぎるとかゆみが強くなりますので注意してください。入浴後に汗をかいてしまう、頬や手足の赤みがなかなか引かないなどが生じるような長湯は避けてください。なお、入浴剤も温まり過ぎる傾向があります。
皮膚を洗う際には石鹸をしっかり泡立て、手のひらで優しく泡をなじませてすすぎます。タオルなどを使用する場合は皮脂を落とし過ぎない木綿のガーゼなどが適しています。
入浴後は乾いたタオルで水気を吸い取るように優しく拭き取り、清潔な下着や衣類を身に付けます。衣類もできるだけ刺激が少なく、強く締め付けないものを選びましょう。

汗対策

屋外で遊んだ後は皮膚に汗やホコリなどの汚れがたくさん付着しています。そのままにしておくとかゆみやとびひなどを起こしやすくなり、皮膚の状態が悪化してしまいますので、シャワーでしっかり汗や汚れを洗い流してください。シャワー後は入浴の際と同じように乾いたタオルで水気を吸い取るように優しく拭き取り、刺激が少なく強く締め付けない清潔な下着や衣類を身に付けます。

かゆみ対策

強いかゆみの症状がある場合には、ステロイド軟膏などを適切に塗布して速やかな鎮静化につなげる治療が基本になりますが、お子様から急なかゆみの訴えがあった場合にはシャワーを浴びる、患部に保冷剤や冷たいタオルを当てるなども有効です。急なかゆみ用として冷蔵庫に保湿剤を入れておき、冷たい保湿剤を塗布することでかゆみが緩和することもあります。

プールや海水浴

プールの水に含まれている塩素や海水の塩分が皮膚に残っていると強いかゆみを起こしますので、プールや海水浴の後にはできるだけ早くシャワーを浴びてきれいに洗い流すようにしてください。できれば入浴してよく泡立てた石鹸で優しく洗うとさらに効果的です。状態によってシャワー後の保湿剤や軟膏の塗布が必要になるケースがありますので、事前に医師と相談しておきましょう。
なお、とびひを合併している場合には治るまでプールや海水浴は禁止されますが、軽い湿疹や傷程度でしたら特に問題はありません。

保湿剤によるスキンケア

アトピー性皮膚炎では皮膚が乾燥してバリア機能が低下し、アレルゲンや病原体などからの刺激を受けやすくなっています。炎症などを鎮めるためにステロイド外用薬やタクロリムス軟膏を使用しますが、乾燥を解消するための保湿剤の使用も不可欠です。保湿剤は皮膚の状態が改善してからも季節に合わせたスキンケアとして続けていくことで良好な状態を維持するために役立ちます。
保湿剤を塗布する前には入浴してよく泡立てた石鹸で洗って清潔にしますが、皮脂が落とされてしまいますので保湿剤で水分と油分を補い、乾燥を予防します。保湿剤の塗布は入浴後5分以内を目標にして行うようにします。
夏は基本的に入浴やシャワー後に行いますが、冬は空気が乾燥しますのでそれ以外のタイミングでも乾燥を防ぐためにこまめな保湿を心がけてください。

保湿剤の使用方法

保湿剤を塗布する頻度は、1日に1~3回程度が目安となります。大人の人差し指の先端から第1関節までの長さになるまでチューブから保湿剤を押し出した約0.5gを大人の手のひら2つ分の面積に塗布します。この軟膏の量は1FTU(フィンガー チップ ユニット)という単位で呼ばれ、軟膏を使う際の目安となります。なお、ローションの場合は1円玉大が目安の量になっています。適切な塗布は、軽く乗せたティッシュが付着する、少しテカって見えるなども目安となります。医師の指示通りに塗布できるようになって、ホームケアに慣れてくると大幅な症状改善につながることもよくあります。

薬物療法

外用療法

炎症を鎮めてかゆみを軽減させるために、ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏といった外用薬の使用が標準的な治療となっています。ステロイドは副腎皮質でつくられるホルモンの1種です。ステロイド外用薬は適切に使うことで短期間に炎症を抑えられます。ステロイドの効果や使い方について間違った情報や知識からステロイドの使用に不安を感じている方もいますが、適切な使い方をしていれば重篤な副作用を起こすことはほとんどありません。
なお、タクロリムス軟膏も皮膚の炎症を抑える効果があります。2歳未満には処方できないなど制約はありますが、長期間使用してもステロイド外用薬の長期間使用で生じることがある皮膚の菲薄化を起こさないというメリットがあります。最初に使用する際にヒリヒリするような刺激を感じることがありますが、ステロイド外用薬を使用して皮膚症状がある程度緩和してからタクロリムス軟膏に切り替えると刺激が出にくい傾向があります。
外用薬の使用は、医師の指示通りに行うことがとても重要です。「できれば薬を減らしたい」「かゆがらないので塗るのはいったんお休み」など自己判断して指示から外れた使い方をしてしまうとぶり返して悪化し、効果が現れにくくなって治療が長引いてしまいます。かゆみや湿疹がある時だけステロイド外用剤を使っていると、良くなっては悪化するサイクルを繰り返し、いつまでもステロイド外用剤の使用を止められなくなってしまいます。減薬・休薬に関しては、指示通りに行っていきましょう。減薬は、皮膚の状態が改善して安定した時点で行いますが、1日2回の塗布を1回にして様子を観察し、良好な状態が維持できれば1日おきに塗布するといったペースで少しずつ外用薬を減量していきます。最終的に週に数回程度の塗布を行うプロアクティブ療法を行うことで予防的な効果を得られるとされています。

内服療法

かゆみを緩和する抗ヒスタミン薬を用いることが多くなっています。かゆみが我慢できずに掻き壊してしまうなどがある場合に処方されます。抗ヒスタミン薬は、かゆみを抑制できますが炎症を治すことはできないので、補助的に使われています。

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