小児皮膚科について
皮膚は角層のバリア機能で守られていて異物の侵入を防いでいますが、お子様はバリア機能が未発達で皮膚トラブルを起こしやすい傾向があります。皮脂や角質水分量が少ないお子様の皮膚はアレルゲン(アレルギーの原因となるもの)などの異物が侵入しやすく、乾燥することでかゆみに対する知覚過敏を起こして軽度の刺激にも強いかゆみを感じることがあります。症状を伝えることができない幼いお子様の皮膚トラブルでは、状態や場所をしっかり把握した上で適切なスキンケアをしてあげることが重要です。薬を塗る範囲、量、広げ方、塗る頻度などは皮膚トラブルの内容や部位によって変わります。当院では、ケアを適切に行えるよう、薬の塗り方やスキンケアについてしっかり指導しています。
乳児湿疹
乳児期に起こる様々な湿疹を含む総称であり、生後すぐに生じることもあります。特に多い乳児湿疹には乳児脂漏性皮膚炎があり、皮脂分泌が増える生後2週間以降に生じやすいとされています。頭皮や額、頚部などに黄色い脂漏やかさぶた、紅斑、かさつきなどの症状を起こしますが、皮脂分泌が落ち着く生後3か月頃には改善に向かうことが多くなっています。原因は皮脂による刺激に加え、マラセチアという真菌(カビの1種)の関与も指摘されています。
よく泡立てた石鹸で優しく洗い、きれいにすすぐといったケアで改善することが多いのですが、炎症が強い場合には、ステロイド外用薬を使った治療が必要になることもあります。
おむつかぶれ
便や尿に含まれる刺激物質によって炎症を起こしている状態です。動きによるすれ、汗などで悪化しやすく、肛門や外陰部とその周囲に赤み、ブツブツ、ただれなどを起こし、潰瘍になることもあります。清潔にして患部に亜鉛華軟膏やワセリンを塗り、乾燥を保つといったケアで改善することもありますが、炎症が強い場合には短期間だけステロイド外用薬を使用して炎症を鎮めます。再発を防ぐためには、おむつ替えをこまめに行い、その際に丁寧な洗浄と水気を優しく完全に拭き取り乾燥させるようケアすることが有効です。
なお、似た症状を起こすカンジダ皮膚炎では通常のおむつかぶれへの治療やケアでは治すことができず、抗真菌薬を使用した治療が必要になります。通常のケアではおむつかぶれが改善しない場合、カンジダ皮膚炎ではないか確かめることが重要です。
アトピー性皮膚炎
強いかゆみのある乾燥あるいは浸潤した湿疹が悪化したり良くなったりを繰り返す慢性疾患で、乳幼児の発症が多く、症状が2か月以上続く場合はアトピー性皮膚炎が疑われます。アレルギーを起こしやすい素因があり、そこに皮膚バリア機能低下やダニ、ハウスダストなどのアレルゲン、汗、垢、摩擦による刺激など様々な要因が複雑に関与して発症すると考えられています。お子様のアトピー性皮膚炎は、アトピックドライスキンという皮膚の乾燥が大きく関与して発症することが多く、強いかゆみを生じることから悪化しやすい傾向があります。
症状の内容や程度、炎症を起こしている部位などに合わせて、ステロイド外用薬、免疫抑制薬(タクロリムス軟膏)、保湿剤などを使った治療によって状態を改善させ、痒みが強いときには抗ヒスタミン薬の内服を行うこともあります。皮膚の状態が改善してからも、良好な状態を保つためには季節などに合わせた適切なスキンケアを続けていくことが重要です。計画的に治療に取り組み、良好な状態を長く続けられるよう、当院でサポートしています。
じんましん
強いかゆみを伴う円形から地図上の限局した赤い皮疹や腫れが急に現れて、数分から24時間以内に消えてしまうという症状を起こします。チクチクする刺激、痛み、熱感などを伴うこともあります。粘膜が腫れる症状を起こすことがあり、のどなどに腫れを生じた場合は呼吸困難を起こす可能性がありますので救急受診が必要です。お子様のじんましんは風邪などの感染症や温熱、寒冷刺激などで生じることも多いですが、原因を特定できないことが多いです。
なお、急性のじんましんに関しては抗ヒスタミン薬を数日内服することで症状が見られなくなることが多いですが、慢性的な症状がある場合は継続して服用しながら経過を観察し、減薬していくという治療を行います。
あせも
汗を分泌する汗管が詰まり、中に溜まった汗によって炎症を起こし、紅斑や強いかゆみを生じます。基礎代謝が盛んなお子様は汗の量が多く、あせもを発症しやすい傾向があります。発症しやすいのは、髪の生え際、首、脇の下、肘や膝の裏、おしりなど汗をかきやすい場所やウエストなど衣類による締め付けのある場所です。
掻き壊して細菌が感染するととびひになってしまい、強いかゆみのある水疱が全身に広がる可能性がありますので、しっかり治して再発を予防することが重要です。治療は状態によってステロイド外用薬、抗ヒスタミン薬などの内服薬が使われます。汗をかいたらこまめにシャワーを浴びて着替えるといったケアは再発予防にも有効です。また、吸湿性が良く風を通しやすい衣類を選び、室内の風通しや気温、湿度にも配慮しましょう。
とびひ(伝染性膿痂疹)
皮膚にある傷口や病変部に細菌が感染してかゆみのある水疱を生じる疾患です。患部を掻いた手指を介して健康な皮膚に感染し、全身に水疱が広がってしまうこともあります。湿疹、あせも、虫刺され、アトピー性皮膚炎などを掻き壊して生じることもよくあります。原因となる細菌は常在菌である黄色ブドウ球菌などが多いのですが、化膿性連鎖球菌に感染すると痂皮(かひ)性膿痂疹を発症し、紅斑や厚みのあるかさぶたなどを生じることがあります。
とびひは細菌によって生じますので抗菌薬による治療が有効であり、強いかゆみがある場合には抗ヒスタミン薬の内服を行うこともあります。こまめにシャワーを浴びて患部を清潔に保ち、掻いて病変を広げないよう患部にガーゼを当てて保護します。
虫刺され
虫に刺される、または接触して赤みや腫れ、発疹、かゆみなどを起こしている状態であり、原因となる虫は蚊、ダニ、ノミをはじめ、アブ、ハチ、毛虫など多岐に渡ります。症状も様々であり、赤み、腫れ、強いかゆみ、痛み、水疱や発疹などがあります。また蚊に刺された場合、すぐに赤く腫れて強いかゆみを起こすことが多いのですが、こどもは遅延型反応として当日はそれほど強い反応を起こさず、翌日になって強い症状が現れるケースも少なくありません。
こどもの虫刺されでは、強いかゆみがあると掻き壊し、とびひを発症させることが多いので、腫れや強いかゆみがあるようでしたら早めに受診するようお勧めしています。強い症状がある場合は短期間のステロイド外用薬の使用で速やかに炎症を鎮める治療が有効です。また、かゆみが強いときは抗ヒスタミン薬の内服を行うこともあります。
また、以前ハチに刺されたことのある人が、再度同種のハチに刺されるとアナフィラキシーショックを起こす可能性があります。ハチに刺されたあと、めまいや吐き気、じんましん、呼吸困難などの症状が現れた場合には速やかに救急受診してください。
いぼ・水いぼ
いぼ(尋常性疣贅/じんじょうせいゆうぜい)
ヒトパピローマウイルス(HPVウイルス)が小さな傷口から感染して生じるいぼです。徐々に大きくなって表面も硬くなっていきますが、足の裏にできた場合を除き痛みが起こることはなく、かゆみもありません。できやすい場所は手足で足底が最も多いです。皮膚科で凍結や電気焼灼などの治療が可能ですので、受診されてください。なお、一般的には複数回の治療が必要になります。
水いぼ(伝染性軟属腫)
伝染性軟属腫ウイルスに感染して生じるいぼで、光沢があって水っぽい見た目からこの名前で呼ばれています。発症から1~2か月すると増殖し、乾燥してかゆみを伴う湿疹となり、搔き壊すようになり気づかれます。プールで浮き輪やビート板を共有してうつる可能性があり、皮膚が乾燥して皮膚のバリア機能が低下していると感染リスクが高くなります。
ほとんどの場合は1年くらい経過すると徐々になくなっていきますが、感染力の強さや見た目の問題もあり、数が少ないうちに皮膚科を受診して摘徐するのが望ましいです。
ウイルス感染症
皮疹の症状を起こす疾患のうち、こどもに多い感染症には水ぼうそう、はしか、風しん、手足口病などがあります。感染力が強いものもありますので、感染した場合には速やかに適切な治療を受け、周囲に感染を広げない配慮も必要になります。
水痘(水ぼうそう)
水痘・帯状疱疹ウイルスに感染して発症します。潜伏期間は2週間程度であり、斑点状の赤い丘疹がからだと首のあたりから顔面に生じ、全身に拡大します。次第に水疱、かさぶたへ変化しますが、これら各段階の発疹が混在するのが特徴です。1週間程度で丘疹が水疱からかさぶたになります。抗ウイルス薬による治療が有効ですが、水痘は空気感染し感染力が強いため、ワクチン接種が極めて有効な予防手段となります。全ての発疹がかさぶたになるまで出席停止となります。
麻しん(はしか)
麻しんウイルスによる感染症です。麻しんは空気感染し、感染力が非常に高い疾患です。潜伏期間は10日間程度であり、38~39℃の高熱が出て、目の充血、目やに、鼻水、咳、のどの痛みなどの症状を起こします。数日するといったん熱が下がりかけ、再度高熱が出てきた時に口内粘膜にコプリック斑という特徴的な白いブツブツが生じます。その後、赤い発疹が顔から首、全身へと広がり、発疹は徐々に融合し、色素沈着を残しながら消えていくという経過を辿ります。有効な治療薬はなく、個々の症状を緩和する治療が行われます。発症予防には麻疹含有ワクチンの接種が極めて有効であり、1歳になったらできるだけ早く予防接種を受けることが重要です。
風しん(三日ばしか)
風しんウイルスに感染して生じ、潜伏期間は2~3週間程度です。発熱、赤い丘疹、耳の後ろや首のリンパ節の腫れを起こすことが多くなっています。なお、はしかと違い、丘疹は色素沈着せずに消えていきます。有効な治療薬はなく、予防にはワクチン接種が極めて有効です。
妊娠初期に母親が風しんウイルスに感染すると、胎児に感染して先天性風しん症候群という白内障・先天性心疾患・難聴・小頭症・知的障害などを生じることがあります。感染がわかったら妊娠している方やその可能性のある方への感染が起こらないよう十分な配慮が必要になります。
突発性発疹
ヒトヘルペスウイルス6型・7型による感染症で、多くは生後6か月から1歳ごろに突然の高熱が3~4日続き、熱が下がると同時に全身に赤い発疹が生じます。発疹は痒みを伴わず、数日で消えてなくなります。高熱の割に元気なことが多いですが、熱性けいれんや稀に脳症を合併することがあります。発疹が現れると不機嫌になることが多く、咳や鼻水などの風邪症状は見られませんが、おなかがゆるくなることがあります。有効な治療法や予防接種などはなく、発熱などの症状に対する対症療法を行います。
伝染性紅斑
ヒトパルボウイルスB19による感染症で、潜伏期間は1-2週間程度です。発熱、倦怠感などかぜ様症状が出現後、顔へ紅斑が現れ、次いで四肢などにレース状、網目状の紅斑が現れて1週間程度で消えていきます。いったん消失後に再発することもありますが、色素沈着を残すことはありません。顔の紅斑から俗にリンゴ病と呼ばれます。効果的な治療法はありませんが、症状が強い場合には、抗ヒスタミン薬などを用いた治療が行われることがあります。母親が妊娠中(特に28週未満)に感染した場合には、2-6%が流産や死産となり、まれに全身に浮腫をきたす胎児水腫になることがあります。なお、発疹が現れた時点では感染力はほとんど消失しているので、登園・登校に制限はありません。
手足口病
コクサッキーA16ウイルスやエンテロウイルス71などによる感染症で、潜伏期間は3~6日とされています。
主な症状には、手足や口内、のどの粘膜に現れる小水疱と紅斑でおしりや肘・膝に現れることもあります。時に腹痛、下痢、食欲不振などがありますが、熱はあまり高くならないことが多く、1-3日程度で解熱します。口内にできる水疱などの痛みで食欲が落ち、十分な水分補給ができないようでしたら当院を受診してください。なお、症状は1週間程度で改善に向かいますが、症状がなくなっても咳や鼻水からは1~2週、便からは数週から数カ月間ウイルス排出が続くので、特にトイレの後はきれいに手を洗うなどの対策をしっかり行うようにしてください。
頭じらみ
アタマジラミが頭髪に寄生し、かゆみや湿疹を生じ、毛髪にアタマジラミの卵がたくさん付く感染症です。髪同士が触れる程度で感染しますので、毎日入浴して清潔にしていても感染することがあります。アタマジラミは体長2~4mmあって肉眼でも確認できるサイズですが、動きが速いので確認は難しく、毛髪に付着した卵を確認することで感染の有無を判断します。
シラミ駆除薬フェノトリン(スミスリン)シャンプーで成虫や幼虫は駆除できますが、アタマジラミの卵はシャンプーでは除去できません。卵は毛髪に強く付着しており、数も多いので、全ての卵が幼虫になって駆除できるまで3~4日おきにシラミ駆除薬フェノトリン(スミスリン)シャンプーを4回程度行う必要があります。
新生児ざ瘡
赤ちゃんに生じるにきびのことで、常在菌の関与も指摘されています。皮脂腺分泌が活発になる生後2週あたりにでき始め、数か月で自然になくなります。よく泡立てた石鹸で優しく丁寧に洗い、洗浄後は保湿剤の塗布をするなど基本的なケアを続けることが有効です。
乳児脂漏性皮膚炎
(乳児脂漏性湿疹)
黄色く、魚のウロコのようなかさぶた状の痂皮(乳痂)ができる疾患です。頭部、顔、首、わきの下にできやすく、発症や悪化にはマラセチアといった真菌(カビの1種)の関与も指摘されています。痂皮を軟らかくするために入浴の30分前にベビーオイルやオリーブ油を痂疲に塗り、よく泡立てた石鹸で優しく丁寧に洗ってすみずみまでよくすすぎ、保湿剤を塗るというケアを続けると多くの場合は改善できます。ケアを続けても改善しない場合は軟膏を処方しますので、ご相談ください。
皮脂欠乏症・
皮脂欠乏性湿疹
皮脂分泌が不足して発症する疾患で、皮膚が乾燥する皮脂欠乏症、湿疹を伴う皮脂欠乏症湿疹に分けられます。生後しばらくは皮脂分泌が活発ですが、3カ月頃から皮脂分泌が低下しますので、多くの場合3カ月以降に発症します。
主な症状は、皮膚のかさつき、白っぽい粉を吹くなどであり、皮脂欠乏性湿疹では湿疹を伴います。ヘパリン類似物質をはじめとした保湿剤によるスキンケアに加え、湿疹を伴う場合はステロイド外用薬を併用することで徐々に改善します。
乳児血管腫・いちご状血管腫
未熟な毛細血管が異常増殖して生じる良性腫瘍で、見た目が赤く、いちごのような外観からいちご状血管腫とも呼ばれます。生後1か月以内の発症が多く、1歳以降は数年の経過で自然に小さくなっていきますが、痕が残ることがあります。目や耳の周囲、気道などに血管腫ができた場合は身体機能に影響が現れる可能性があり、治療が必要になります。また、顔面で広範な例や増殖が急激な例など整容的な問題がある場合にも治療を検討します。治療法には、β遮断薬の内服、レーザー治療、手術などがあり、必要な場合は連携する高度医療機関をご紹介します。