こどもの繰り返す発熱
成長過程にあるこどもの免疫はまだ弱く、免疫が発達した成人であれば症状をほとんど起こさない病原体に感染しても発熱することがあります。
こどもの発熱でも緊急受診が必要なケースはありますが、特に問題がない場合も多いことから、落ち着いて状態を観察し、受診が必要な状態かを判断しましょう。
なお、痛みなどがあっても言葉で症状を伝えられない乳幼児の場合には、なかなか泣き止まない、元気がないなども症状を疑うポイントになります。しっかり様子を観察してください。
発熱があった際の
チェックポイント
発熱の症状があり、受診が必要かどうか判断するための目安を下記でご紹介しています。
1つでも当てはまる場合には、すぐに受診してください。
- 呼びかけてもぼんやりしている
- 呼吸が苦しそう
- 何度も嘔吐する
-
水分がとれず、半日以上おしっこがでない
- ぐったりして顔色が悪い
-
はじめてけいれんした
-
生後3か月未満で、38℃以上の発熱がある
など
日々お子様の様子を確認しているご家族だからこそ、普段と少し違う様子に気付きやすくなります。言葉では説明できないけれど、どこかいつもと違うなど、少しでも心配な様子がありましたら気軽にご相談ください。
当院ではどんなご質問にも専門医の立場から真摯にお答えし、保護者の方の気持ちに寄り添って不安や心配の解消をサポートしています。どんなお悩みでもお気軽にご相談ください。
こどもが熱を出す原因
こどもは免疫が発達途中であり、未熟ですから、大人であれば軽い体調不良程度で済んでしまう病気でも熱を出すことがあります。特に多いのは、風邪などウイルス感染症による発熱です。早急な受診が必要な病気によって発熱している可能性もありますので、様子をしっかり確認して受診が必要かどうかを判断しましょう。
こどもの発熱で疑われる
主な病気
突発性発疹
ヒトヘルペスウイルス6型・7型による感染症で、多くは生後6か月から1歳ごろに突然の高熱が3~4日続き、熱が下がると同時に全身に赤い発疹が生じます。発疹は痒みを伴わず、数日で消えてなくなります。高熱の割に元気なことが多いですが、熱性けいれんや稀に脳症を合併することがあります。発疹が現れると不機嫌になることが多く、咳や鼻水などの風邪症状は見られませんが、おなかがゆるくなることがあります。有効な治療法や予防接種などはなく、発熱などの症状に対する対症療法を行います。
麻疹(はしか)
麻しんウイルスによる感染症です。麻しんは空気感染し、感染力が非常に高い疾患です。潜伏期間は10日間程度であり、38~39℃の高熱が出て、目の充血、目やに、鼻水、咳、のどの痛みなどの症状を起こします。数日するといったん熱が下がりかけ、再度高熱が出てきた時に口内粘膜にコプリック斑という特徴的な白いブツブツが生じます。その後、赤い発疹が顔から首、全身へと広がり、発疹は徐々に融合し、色素沈着を残しながら消えていくという経過を辿ります。有効な治療薬はなく、肺炎・脳炎といった合併症を起こして命にかかわる可能性もあります。
まれではありますが、麻疹に感染してから5~10年を経て、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という性格変化や成績の低下、体のぴくつきなどから気づかれ、次第に知能、運動の障害が進行し、寝たきりとなる進行性の脳炎を合併することがあります。発症予防には麻疹含有ワクチンの接種が極めて有効であり、1歳になったらできるだけ早く予防接種を受けることが重要です。
水痘(みずぼうそう)
水痘・帯状疱疹ウイルスに感染して発症します。潜伏期間は2週間程度で、発熱に加え、斑点状の赤い丘疹がからだと首のあたりから顔面に生じ、全身に拡大します。次第に水疱、かさぶたへ変化しますが、これら各段階の発疹が混在するのが特徴です。1週間程度で丘疹が水疱からかさぶたになります。抗ウイルス薬による治療が有効ですが、水痘は空気感染し、感染力が強いため、ワクチン接種が極めて有効な予防手段となります。全ての発疹がかさぶたになるまで出席停止となります。
プール熱(咽頭結膜熱)
アデノウイルスに感染して発症します。高熱が4~5日続き、のどが真っ赤に腫れる咽頭炎や目の充血、目やになどの結膜炎を起こします。他にも、頭痛、下痢、吐き気などを起こすことがあります。解熱剤、のどの痛み止め、整腸剤などの対症療法で対応しますが、水分補給が十分にできないなど症状が強いときは点滴や入院したりすることがあります。プール熱という名称ですが、夏以外の季節にもみられます。
ヘルパンギーナ
エンテロウイルスやコクサッキーウイルスに感染して発症する夏かぜの代表的な病気です。突然の発熱、のどの痛み、口内にできる水疱が主な症状であり、解熱剤、のどの痛み止めなどの対症療法で対応しますが、痛みで食事や水分摂取ができなくなり、脱水症状を起こすこともあり注意が必要です。水分摂取ができない場合は速やかに受診してください。
溶連菌感染症
細菌である溶連菌がのどに感染して発症します。咽頭炎や扁桃炎の症状として、発熱、のどの痛みや赤みがあり、舌もイチゴのように赤くなりザラッとした見た目になります。全身に鮮紅色の発疹を生じることもあります。抗生物質を服用すると1-2日で解熱し、のどの痛みも和らぎますが、急性腎炎などの合併症を起こさないために10日間程度抗生物質を服用する必要があります。
インフルエンザ
例年、冬に流行する呼吸器の感染症であり、症状が重く、肺炎や脳炎・脳症といった合併症の可能性もあり注意が必要です。1~4日の潜伏期間の後、突然の高熱・だるさ・のどの痛み・頭痛などが出ます。風邪症状以外にも腹痛や嘔吐など胃腸炎の症状がでることもあります。発症から48時間以内であれば体内でのウイルス増殖を抑える抗ウイルス薬の効果を得やすいとされています。現在、迅速診断キットが登場したことで早期診断が可能になっていますが、発症から12時間以内では正しい結果がでないことがあり、検査は発症12時間以降が望ましいです。
なお、ワクチン接種はインフルエンザの最も効果的な予防法であり、発症や合併症リスクを下げることが可能です。生後6か月から接種可能ですので、流行前の接種をご検討ください。
RSウイルス感染症
風邪のウイルスであり、発熱、咳、鼻水などの症状を認め、多くの場合は軽症で済みますが、特に6か月以下の乳児が感染すると細気管支炎や肺炎といった重篤な呼吸障害を起こす可能性があり、ヒューヒューゼイゼイという喘鳴、呼吸困難、食欲低下などで、入院が必要になることもあります。2歳になるまでにほとんどのお子様が感染するとされており、繰り返し感染することで軽症化していきます。迅速診断キットで診断が可能ですが、検査対象は原則1歳未満や入院した場合となります。特効薬はなく、治療は風邪症状に対する対症療法を行います。
流行性耳下腺炎
(おたふくかぜ)
耳の近くにある耳下腺という唾液腺にウイルスが感染し、耳の下が腫れておたふくのような顔になる病気です。突然の両側あるいは片方の耳下腺、顎下腺の腫れが見られ、熱や痛みを伴うこともよくあります。治療は痛み止めなどの対症療法しかなく、稀ですが、無菌性髄膜炎や膵臓炎、睾丸炎などを合併したり、難聴という後遺症が残ることがあります。1歳以上で予防接種を受けることが可能ですので、感染予防と合併症予防のためにも集団保育の前の接種をお勧めします。
川崎病
4歳以下、特に1歳前後の乳幼児がかかることが多い原因不明の病気です。全身の血管に炎症が起こるため、高熱が続き、発疹、目の充血、手足やリンパ節の腫れ、唇や口内が真っ赤になるなどの症状を起こします。熱が続き、上記の症状がみられるときは川崎病の可能性があり、診察が必要です。川崎病で怖いのは心臓に栄養を送っている血管である冠動脈に炎症が続くことで、冠動脈瘤という血管のこぶを合併することです。冠動脈瘤が残ってしまうと将来血管が詰まったり、狭くなる可能性があり、それを防ぐため内服薬を継続する必要があります。そうならないために、川崎病と診断されたら早期に治療を行う必要があります。
発熱時の対処方法
発熱があった場合には様子をしっかり確認しますが、その際に悪化させないよう下記のような正しい対処を行う必要があります。
水分補給
発熱すると汗の量が増え、呼吸が荒くなって失う水分の量が通常時より多くなります。発熱がある場合は、脱水を起こさないために適切な水分補給が不可欠です。乳児では母乳やミルクをしっかり与えてください。幼児期以降は経口補水液が理想ですが、嫌がる場合はリンゴジュースやだし汁などをしっかり飲ませてあげましょう。なお、十分な水分補給ができない場合は、当院を受診してください。
消化しやすい食事
熱がある時は無理に普段通りの食事させなくても大丈夫です。食べさせる際には口当たりが良く、軟らかくて消化しやすいものを用意しましょう。
定番のお粥やよく煮込んだうどん、リンゴやバナナなどのフルーツがお勧めです。固形物が飲み込みにくい場合には、アイスクリームやヨーグルト、プリン、ゼリー飲料なども適しています。
温度調整
寒気がある場合は、手足や首を中心に温めてあげましょう。厚着や布団のかけ過ぎで熱がこもってしまうと余計につらく、眠りにくくなりますので温度調整に気を付けてください。手足が熱く顔も赤くなり、暑がる様子があれば首や脇の下などを冷やすといいでしょう。
汗が出たら身体を拭いて乾いた衣類に着替えさせ、眠りやすい環境を整えましょう。また乾燥するとのどの痛みなどが悪化しますので湿度管理も大切です。
こどもの発熱に関するQ&A
熱が下がったり上がったりを繰り返し、昼間は平熱なのですが、受診した方がいいですが?
体温は健康な時にも夕方に高くなり、早朝に低くなる傾向があり、食事や運動、入浴等によっても変化します。熱がある場合、炎症を抑制する副腎皮質ホルモンの分泌は朝に多くなりますので熱が下がりやすく、夜になると減少して熱が上がりやすくなります。また、平熱には個人差がありますので、普段、朝昼晩の体温を測って記録して平熱を把握しておくと異常に気付きやすくなります。 発熱していても機嫌が良く、食欲があって、水分をしっかりとれており、おしっこの回数や量にも問題がなく、普段通りに遊んでいる場合は、無理に受診せず様子をみても大丈夫です。お子様の症状はわかりにくく、判断が難しいこともあると思います。保護者の方は普段、お子様から様々なサインを受け取っていますので、説明が難しくても違和感を覚えて受診することで病気の早期発見や治療に役立つこともあります。少しでも不安に感じたら遠慮なく受診してください。
発熱している際には入浴させない方がいいですか?
入浴は体力を消耗しますので、幼いお子様で38.5度以上ある、またはそれ以下でもぐったりしていたり元気がない場合には入浴させない方がいいでしょう。一方、元気があって機嫌が良い場合はシャワーなど短時間の入浴は構いません。湯冷めさせないためにも、入浴後はすぐに暖かい部屋に移動して身体の水分をしっかり拭き取り、服を着せてあげましょう。厚着や布団のかけ過ぎに注意し、室温や湿度を適切に保ち、しっかり水分を補給して、汗をかいたら身体をよく拭いて乾いた服に着替えさせてください。
発熱した際に、早めの受診が必要になる目安や基準はありますか?
一般的な受診の目安には下記のものがあります。1つでもあてはまる場合は早めに受診してください。なお、判断に迷う場合や不安がありましたら、お気軽に受診してください。
- ぐったりしている・元気がない
- ぼんやりしている
- 機嫌が悪い・ぐずり続けている
- 熱以外に咳や嘔吐など他の症状がある
- 発疹がある
- 息苦しそうに呼吸している
これ以外にも「いつもと違う」と感じられた場合には、早めの受診をお勧めしています。はっきりとした症状がなくても普段の様子を見ている保護者の方はちょっとした体調変化に気付くことがあります。言葉では説明しにくい違和感や心配・不安がある場合にも気兼ねせずにご相談ください。
高熱が続くと脳に悪影響があるのではと不安です。危険な発熱を見分けることはできますか?
感染によって起こる免疫細胞の反応が脳へ伝わり、細菌やウイルスが増殖しにくくなるよう高い体温を保とうと判断して、体温調整中枢が発熱を起こしています。体温調整中枢からの指令によって寒気による筋肉の震えが起こり、熱の生産量が増加して体温が上がります。さらに汗を減らすことで末梢血管を収縮させて熱の放出をセーブしますので、体感は熱くなりますが、手足の先は冷えやすくなります。こうした発熱は脳がコントロールしていますので、脳を障害する可能性のある42℃以上になることはありません。ただし、脳に細菌やウイルスが感染してしまうと脳炎や脳症によって脳に障害を起こすことはあります。 なお、熱中症で生じる発熱に関しては、体温放出がうまくできずに生じていますので、脳障害や死亡といったリスクがある42℃以上になってしまう可能性があり、早急に適切な処置や治療を受ける必要があります。脱水症状が進んで熱中症を発症することもありますので、発熱している際にはこまめな水分補給が重要になります。